【パニック障害とは?】
パニック障害とは、突然理由もなく、動悸やめまい、発汗、窒息感、吐き気、手足の震えといった発作(パニック発作)を起こし、そのために生活に支障が出ている状態のことを指します。
パニック障害に対する治療では通常、薬による治療とあわせて、少しずつ苦手なことに慣れていく認知行動療法が行われます。無理をせず、自分のペースで治療に取り組むことが大切ですので、周囲の理解とサポートも必要となります。

今回はパニック障害の症状や、治療法について解説します。


パニック障害の主な症状
パニック障害には、①パニック発作、 ②予期不安の2つの代表的な症状があります。
それぞれについて簡単に説明します。
① パニック発作
パニック発作とは、何の前触れもなく、動悸や息苦しさ、手足の震えなどを体が引き起こす症状です。
発作自体は、10~30分程度で収まりますが、その間、「このまま死ぬんじゃないか」「気がおかしくなるんじゃないか」という耐え難い恐怖感に襲われます。
このパニック発作自体は珍しいものではなく、実は3人に1人の割合で経験すると言われています。
しかし、その内の10%の割合で、発作が慢性化し、生活に支障が生じるパニック障害に陥ってしまう人がいます。
パニック障害は、特に男性よりも女性に多く、20代~30代での発症率が最も高くなっています。
② 予期不安
予期不安とは、「またパニック発作が起きたらどうしよう」と過度な不安を感じ、日常生活に支障が出る症状です。
特に、電車やエレベーター、交通渋滞などの、パニック発作が起きても簡単には逃げられない場所を避けるようになり、通学・通勤などの外出が難しくなることもあります。
予期不安はドキドキやめまいなどの発作を体験したからこそ、また生じるんじゃないか?と心配になる状態のことなので、予期不安について人に説明しても、「心配しすぎだよ」と、なかなか理解してもらえない、という悩みを抱える人も多くいます。
パニック障害の原因
パニック障害の原因の一つは、「脳内神経伝達物質のバランスの乱れ」という説が有力です。
精神の安定作用を持つセロトニンが十分に分泌されず、反対に、興奮作用を持つノルアドレナリンが過剰分泌されて、強い不安や恐怖感が生まれているという考え方です。
このような、「神経伝達物質の乱れ」を引き起こす要因のひとつには、ストレスがあると考えられています。
ストレスとは、簡単に説明すると、本人にとって対処が困難な環境の変化のことです。
つまり、一般にイメージされるような重大かつ非常にネガティブなイベント(怒られる、挫折する、大切な人との離別、虐待など、様々)だけでなく、ポジティブな出来事(結婚、昇進、出産など、様々)も、環境の変化としてストレスとなります。


パニック障害の治療法
パニック障害の治療法には、①薬物療法 ②認知行動療法の2種類があります。
また、そのような治療法以外にも、日々の生活習慣の見直しで症状が緩和することもあります。
それぞれ具体的に見ていきましょう。
① 薬物療法
パニック障害の治療で用いられる薬は主に「抗うつ薬」と「抗不安薬」です。
抗うつ薬
抗うつ薬には、セロトニンの働きを調整する効果があります。
主に、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)や三環系抗うつ薬と呼ばれる薬が用いられており、これらの抗うつ薬の処方によって、パニック症状の沈静化が期待できます。
メリットとしては、副作用が出にくく、依存性が少ないことが挙げられます。
人によっては、はじめの数週間、吐き気・ふらつき・眠気などの症状が出ることもありますが、長期的な服薬の中で副作用は軽減されていきます。
デメリットとしては、即効性がないこと、断薬症状が現れることが挙げられます。
抗うつ薬は、効果が出るまでに1ヶ月ほどの時間がかかり、パニック症状の早期の改善は期待できません。
また、急に服薬を中止しても、めまいや吐き気などの症状が出ます。
「効かないから」という理由で、自己判断で服薬を止めたりせず、必ず医師と服薬の回数・量を相談しましょう。
抗不安薬
次に「抗不安薬」について説明します。
抗不安薬は、その名の通り、不安や緊張を和らげる効果があります。
抗不安薬は、抗うつ薬とは異なり、即効性が期待できます。ですので、外出の際などに抗不安薬を持ち歩くことで、万が一のパニック発作にも備えることができ、安心感が得られます。
実際、パニック障害が寛解していても、抗不安薬を携帯している方は多くいらっしゃいます。
抗不安薬のデメリットとしては、睡眠作用、依存性の高さが挙げられます。特に、睡眠作用が強く現れる方は、運転などの危険が伴う行為を控えなければいけません。
また、依存性も一定程度あるため、慢性的な抗不安薬の使用は控え、あくまでも単発的な使用にとどめるべき、とされています。
依存性の程度は薬によっても異なるため、お薬や飲み方については医師としっかり相談しながら決めましょう。
② 認知行動療法
パニック障害では、薬物治療と並行して、認知行動療法が行われることもあります。
認知行動療法とは、
- 考えや行動を日記のように書き出して客観的に振り返る「セルフモニタリング」
- 自分の中で凝り固まっている考えを探し、考え方を柔軟にする「認知再構成」
- パニックが起きやすい状況にあえて身を置き、徐々にその状況に慣れていく「曝露反応妨害法(エクスポージャー)」
などから構成されます。
認知行動療法では、日常の中で無意識に取ってしまう回避行動に気づくことが大切です。
例えば、パニック障害の方には「特急を避けて各駅停車の電車にしか乗らない」「人混みが多い場所には行かない」などの回避行動を取る方が多いです。
このような行動で、パニックをその場凌ぎに予防することはできますが、長期的に避け続けることで、特急電車や人混みに対する不安はより強固になり、根本的な解決には至りません。
まずは不安につながる考え方や無意識の回避行動に気づき、不安を感じながらも少しずつ習慣を変えていきます。
曝露反応妨害法(エクスポージャー)では、意図的にパニック発作の引き金を生じさせます。
例えば、「電車に乗ること」に強い不安を感じる方の場合、最初は「各駅停車の電車に、1駅分だけ乗ってみる」という行動をして、自ら不安を引き起こしていきます。
自分で不安を引き起こして、その不安を客観的に振り返る練習に慣れてきたら、準急に乗ってみたり、特急にも挑戦してみます。
このように、段階的に不安に立ち向かう行動を繰り返し行い、日常生活の多くの部分で不安を感じない状態を目指します。
認知行動療法は、本やネットの情報のみで自分1人で実施すると、「できなかった」「自分には無理だった」という失敗体験を重ねてしまうリスクもあるため、臨床心理士などのカウンセリングの中で治療計画を立てていくことが望ましいです。


③ 生活習慣の見直し
生活習慣を整えることは、パニック障害と向き合っていく上で非常に大切です。具体的な方法としては
- タバコやお酒・カフェインを控える
- 毎日、同じリズムで生活し、7~8時間の睡眠を必ず取る
- 定期的な運動を心がける
- 季節の変わり目、急な気温変化に気をつける
- ストレスを感じる人間関係を極力避ける
などが例として挙げられます。
このような生活習慣の見直しによって、自律神経のバランスが整い、体調の安定が期待できます。
試せそうものから試してみて、自身にあったベストな生活習慣を見つけていきしょう。
【まとめ】
パニック障害になると、それまでの日常が失われ、先の見えない真っ暗なトンネルに入り込んだように感じる方もいるかと思います。
ですが、専門家のもとで適切な治療を行うことで、パニック発作や予期不安は、十分な改善が期待できる疾患です。
回復した時には「今まで何を悩んでいたのか」と、笑って日常へと戻っていかれる方もおられます。



1人で病気を抱え込まず、ぜひ一度、お近くの精神科や心療内科や、カウンセリングルームで相談してみることをお勧めします。